• 土. 12月 13th, 2025

美学会

The Japanese Society for Aesthetics

美学会会長からのメッセージ

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 このページをご覧になられているのは、会員の方・会員ではない方、その両方と思います。
まだ会員でない方のご関心は、美学という学問がいったい何をしているのか、にあるのかもしれません。美学という言葉は、「男の美学」のような主観的で強いこだわりを想起させ、学問との結びつきをわかりにくくしてきました。
 しかし近年、若い世代の研究者によって、明快な説明が与えられています。たとえば、美学は「感性のはたらき」や「芸術」といった「言葉にしにくいものを言葉で解明」[1]しようとする学問である、とするのがそのひとつです。
 そして美学はすでに、新しいフェーズに突入しています。それは芸術だけでなく、ゲームやアニメーション、メタバースやAI、そしてさまざまな人々の感性といった身近なものにその対象を広げてきたのに加え、近年では、料理・掃除・育児といった日常生活のなかにある感性のはたらきを捉える「日常美学everyday aesthetics」も現れてきました[2]。
 他方、こうした新傾向の基盤となる美学の歴史を捉え直そうという動きも、ますます盛んになっています[3]。伝統と新しさの両面で、さまざまな更新が起こり続け、美学を活性化しているのです。
 では、こうした状況のなか、学会が進めるべきは何と考えているのか。会員の方からはそう問われるかもしれません。わたしはそれを、上に述べた更新をリードしている若い世代のみなさんが、旧弊に囚われずに研究を進められる環境を整えること、と考えております。
 すでに吉田寛(東京大学)前会長の在任期間中から、若手研究者の活動を支援する「学会賞」(仮)の創設などが検討されてきました。また、これも前会長任期中と同様、学会の枠を超えたさまざまな交流を進めていくことが、美学という学問を更新し、より多くの若い方々の参加を促すために不可欠のことと考えています。(ベテランの方には、時の試練に耐えた成果をぜひお見せいただきたいとも思いますが、それはまた別の話です。)
 今期はそうした流れを受け、バトンを次の世代へ渡せるよう準備することに努めたいと考えております。それにはもちろん、会員の方・会員ではない方、みなさまのご協力が欠かせません。3年間という短い期間ではありますが、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

美学会会長
秋庭史典

参考文献
[1] 伊藤亜紗(2015)『目の見えない人は世界をどう見ているのか』光文社新書, p.25
[2] 青田麻未(2024)『ふつうの暮らしを美学する—家から考える「日常美学」入門』光文社新書
[3] 井奥陽子(2023)『近代美学史』ちくま新書

現会長

秋庭史典 AKIBA Fuminori
1966年生まれ。名古屋大学大学院情報学研究科教授、名古屋大学大学院情報学研究科附属価値創造教育研究センター・ポジティブ情報学グループ教員、名古屋大学教養教育院プロジェクトギャラリー「clas」世話人。
情報学と美学の協働を考えてきました。著書に『あたらしい美学をつくる』(みすず書房, 2011年)、『絵の幸福—シタラトモアキ論』(みすず書房, 2020年)があります。