• 土. 12月 4th, 2021

美学会

The Japanese Society for Aesthetics

美学会会長からのメッセージ

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 美学会の最大の魅力は、「感性」「芸術」「アート」といった主題への関心を共有することで、さまざまに異なった分野の研究者たちが出会う機会を持ち、専門家だけのグループ内ではなかなか得ることのできない知見や発想、問題提起を交換しあえる点にあるとわたしは考えます。極めて抽象性の高い哲学研究と具体的で実証的な作品研究、古代ギリシアへの関心と現代のゲーム文化への関心が共存している学会というのは、あまり例がないのではないでしょうか。

 現在では様々な学問分野において専門化が進み、研究の方法も精密になっています。それ自体はもちろん良いことなのですが、その反面、異なった領域間の対話が困難になると共に、芸術や文化の世界を全体として考えることの重要性が軽視されがちであることも否定できません。芸術はもちろん専門的研究者のためだけに存在するのではなく、広く芸術愛好者のために存在するものです。けれども学術領域の専門化が進みすぎると、一般の芸術愛好者とのつながりも希薄になってゆかざるをえません。

 愛好者とは「アマチュア」です。それに対して専門的研究者は「プロ」なのかもしれません。現代ではあらゆる学術研究が産業や経営の観点から役立つかどうか、利益を生み出すかどうかで判断される傾向が強くなったために、「アマチュア」は「プロ」よりも単に能力や知識が劣った存在であるかのようにみなされます。それは間違っています。美学を含む哲学の原点は「知への愛(フィロソフィア)」であり、芸術研究の原点は「芸術愛好者(アマトーレ)」なのです。

 現代社会の息苦しさや生きづらさの原因は、私たち個々人がバラバラにされ、信頼や連帯の機会を奪われ、常に熾烈な競争に追い立てられていることにあると思います。力を競い合うことはもちろん大切なことですが、それは同時に、たとえ意見や立場が異なっていても最低限の信頼によって結びつく共同体が存在することによって初めて有効に機能するものだと考えます。学術という限られた領域においてではあれ、異分野の寛容な共存を認める美学会のような組織が存在することは、現代において大変重要なことであると信じています。

現会長

吉岡 洋

京都大学こころの未来研究センター特定教授。
1956年京都生。

甲南大学文学部、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)、京都大学大学院文学研究科教授(美学芸術学)を経て、2016年より現職。

美学芸術学、メディア文化に関する著作活動の他、批評誌の編集、美術展の企画、映像インスタレーションの制作などにも関わってきました。

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